ひとが産まれるということ
先月、高知医療センターで行われた
「ひとが産まれるということ」講演会に参加しました。
出生前診断についてのお話でした。
とても大切なお話だなと思いましたので、
長くなりますがシェアさせて下さい。
また、来年1月になりますが、
次の2回目の講演会に聴きに行きませんか?
出生前診断:
妊娠中に胎児の遺伝子に異常が認められないか
調べる検査のこと。
今までは、妊婦さんのお腹に針を刺して、
羊水をとって調べる、
母胎にリスクを伴う検査(羊水穿刺)が主であった。
しかし、2012年から新しくNIPTという検査が導入され、
妊婦さんの採血だけで、様々な遺伝的疾患の疑いが
分かるようになった。
それでもあくまで疑いなので、
確定診断をえるには、羊水穿刺をしなければならない。
しかし採血のみで胎児のいろいろな遺伝的情報を
得られる時代になり、
そのことで妊婦と家族に様々な自己決定を迫られている。
出生前診断は高知では高知大学病院、
高知医療センター、幡多けんみん病院にて受けられる。
もともと、生まれてくる赤ちゃんの3~5%は、
先天性疾患を持って生まれてくる、といわれている。
遺伝学的な病気は、治療が難しい病気が多い。
もし、異常があったら?
産まれるまでは、産まれる時、生まれた後何が困るか?
赤ちゃんのためにどのようなことが出来るか?
出来るだけ情報を集める。
例えば、心臓の病気。
高知県では赤ちゃんの心臓の手術が出来ない!!
↓
岡山、福岡、大阪、名古屋、東京などへ行かなくていけない。
妊娠中はどうしたらよい?
いつ頃、どこで、どんな治療が出来るか??
↓
対応策を考える
もし治療が難しいと分かったら?
高知県では治療が難しいかもしれない。
治療しても完全に治らないかもしれない。
後遺症が残るかもしれない。
↓
不確実で理解の難しい事柄が多い
まだ、そこに居ない児への想い
誰も答えを教えてくれない、答えのない難しい問題
日本では母体保護法で
胎児に障害の可能性があるからといって、
人工妊娠中絶は認められていない。
妊娠満22週未満に、
妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により
母体の健康を著しく害する恐れがあるもの、
については中絶が認められている。
そのため、重度の障害により世話も多くかかること、
治療費も多くかかることなどの理由によって、
身体的または経済的理由により
母体の健康を著しく害するということで、
人工妊娠中絶が行われている。
このように医療社会と法の乖離がみられている。
難しい症例。
妊娠中期に検査結果を伝える。
生命予後は悪くないが、
神経学的にはどうなるか
生まれてみないと分からないことを伝える。
↓
家族から投げかけられた問い
「先生は、故障があると分かっていてその車を買いますか?」
お母さんの気持ち
お父さんの気持ち
赤ちゃんの気持ち
医療者としての想い
どのような動機や思いで出生前診断を受診しているのか
どのような背景があるのだろうか?
医療センター出生前診断外来を受診した
216症例アンケート結果から
受診の理由は高齢出産であることが理由の大半である。
染色体疾患(ダウン症など)について、
どんな病気かよく知らないけれど、
検査で分かったら、妊娠継続は難しいと
答えているケースが多い。
↓
正しい情報を得ることが出来ないまま、
大切な決断をしなくてはならない環境に
問題があるのかもしれない…
診断・選択されている命がある…
遺伝とは、多様性・唯一性である。
・個々人の生まれつきの特徴の組み合わせは様々である
(遺伝的多様性)
・個人の特徴を形作る遺伝子の組み合わせは多様であり、
同じ人はいない(唯一性)
・多様性は種としての生存に有利
遺伝教育の土台がなければ
↓
・偏った否定的なイメージ
”遺伝=遺伝性疾患”
・無関心 ”私には関係ない”
出生前診断は必要?選択肢が増える
→自己決定を迫られている。
「あいまい」な情報
統計学的な生命予後が悪いのは確かではあるけれど、
この児にそれは当てはまるのか?
出生後の1年後、3年後・・・の経過を予測できるのか?
児と家族は幸せになれるのか???
→医療者も悩むなか、妊婦と家族に自己決定を迫る。
まとめ
・出生前診断において、
すべての妊婦とその家族は、受け入れ難い、
児についての情報を得る可能性がある。
・医療の進歩とともに
妊婦と家族が直面する選択肢は多様化・複雑化している。
・ヒトの多様性・唯一性を日常生活で意識することは、
容易ではない。
大きな課題
・出生前診断で難しい診断を告げられた妊婦とその家族は
どのようなことを望んでいるのだろうか?
・妊婦とその家族が、児にとって
最良の方針を選択するにはどのような環境が必要だろうか?
・児にとって最良の選択とは?
情報をえることによって様々な選択肢がある時代
・出生前診断について知識が少ない。
・疾患を抱えて生きる命について知らない。
・疾患を抱えて生きるということについて知らない、知る機会が少ない。
人は皆、遺伝学的にみれば、
多かれ少なかれ、異常であり、正常な人などいない。
不完全なもの同士が暮らしている。
社会の中で、様々な疾患を抱えて生きる命に
触れる機会を増やしていくことこそが、
今一番、必要とされていることなのではないか、という、
あおぞら診療所の松本先生の言葉が
とても印象に残りました。
次回以降、実際に地域で訪問診療をされている松本先生が、
疾患を抱えて生きる命について、
訪問診療の現場からお話ししてくれるそうです。
たくさんの一般の方に聞いてもらいたい、
関心をもってもらいたい、つながりたいと、
この講演を企画された医療センター産科の永井先生が
言われていました。
ぜひ一緒にお話を聞きに行きませんか?